次の駅に着く前に、灯は二行のメッセージを書いた。
『時計を直してくれて、ありがとう。』 『駅に来てくれなくて、寂しかった。』
最後に「でも、もう大丈夫」と足して、消した。今はまだ、大丈夫ではなかった。父が悪いと決めたいのでも、父を安心させるために嘘をつきたいのでもなかった。
送信を押すと、列車が短いトンネルへ入った。窓に、自分の顔が映った。零番線で封筒を置いてきた自分と、同じ顔だった。
返事は、すぐには来なかった。灯は父が怒ったかもしれないと思った。台所で牛乳の紙を見て、困っているのかもしれない。何も考えていないのかもしれない。
分からないものを、分からないまま持っているのは疲れた。けれど、未来の手紙を読めば、その疲れがなくなったとも限らなかった。
隣に座った年配の人が、足元の鞄を持ち上げるのを手伝ってくれた。灯がお礼を言うと、その人は「見送り?」と聞いた。
「出発です」
自分で口にすると、それが少しだけ頼もしく聞こえた。
大きな駅へ着く直前に、父から返事が来た。
『行くと、止めてしまいそうだった。』
そのあとに、もう一行。
『次は迎えに行く。何も持って帰らなくていい。』
灯は画面を何度も読んだ。見送ってくれなかった朝が消えたわけではない。父の返事を、完全に理解できたわけでもない。それでも、次の言葉を自分から送れる気がした。
『着いたら、部屋の写真を送る。』
ホームへ降りると、雨はやんでいた。灯は駅の案内板を見上げた。来た道は、帰る道にもなる。
零番線に預けた封筒は、まだそこにあるかもしれない。けれど今日の灯は、二行の返事を自分の手で書いた。