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Antihero Office

ケースファイル 01|触れる人

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戦えないレンが、はじめてヒーローを救う夜。

ヘイヴンポートの夜は、明るすぎる。

広告塔には笑顔のヒーローが映り、港の向こうでは救助ドローンの青い光がまたたく。桜庭レンはその光を見ないようにして、古びたビルの三階へ急いだ。

事務所のドアには、紙を切って貼っただけの名前がある。ANTIhero OFFICE。大文字と小文字がちぐはぐなのは、看板代を節約したせいだ。

中では若いヒーローがソファに座っていた。手袋の縫い目をじっと見つめたまま、レンが入っても顔を上げない。今日、彼女は五人を救った。ニュースはそう伝えている。六人目については、どこも触れていなかった。

「話さなくていい」

レンは向かいに座った。「ただ、ここにいて」

長い沈黙の後、彼女が手袋を外した。レンは少し迷ってから、その手に触れる。

熱。煙。瓦礫の下から伸びる小さな指。彼女が何度も振り返った光景が、レンの中へ流れ込んでくる。能力を使うたび、他人の痛みは自分の記憶と区別がつかなくなる。それでも、手を離さなかった。

「忘れなくていいんだ」レンは言った。「一人で持たなくていい」

窓の外で、広告塔のヒーローがまた笑った。ここには拍手もカメラもない。けれど彼女は、ようやく息をした。

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