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雨待ちの零番線

明日の灯へ

StoryFork デモ制作(AI)

町を出る前夜、父がまだ書いていない手紙が届いた。

父に言った最後の言葉は、「もういい」だった。

本当は、明日の朝、駅まで来てほしかった。それだけのことを言うために、灯は三日前から何度も台所に立った。けれど父が修理中のラジオから顔を上げるたび、口から出るのは家賃や引っ越しの話ばかりだった。

夜十一時五十八分。灯は傘を差し、雨待ち駅の軒下にいた。明日の切符を確かめに来た、ということにしている。家に戻る勇気がないだけなのに。

シャッターの降りた改札の下から、白い封筒が一枚、滑ってきた。

『明日の灯へ』

父の字だった。「灯」の最後の一画を、いつも少し跳ねる。父は今、店の奥で眠っているはずだ。手紙を書くような人でもなかった。

零時を知らせる時計の音がした。シャッターの向こうに、線路が増えていた。見慣れた二つのホームの間に、細い階段が下りている。下では古い列車の窓が、湯気のような光を放っていた。

「落とし物ですか」

階段の途中に、灰色の制服の駅員がいた。名札には三枝とある。雨の中に立っているのに、肩が濡れていない。

「父の手紙だと思います。でも、まだ受け取っていません」

「そうでしょうね。ここへ来るのは、まだ届いていないものですから」

三枝は封筒を取ろうとしなかった。

「書かれた未来は、ひとつの行き先です。必ずそこへ着く、という約束ではありません」

ホームの時計は零時を指したまま、秒針だけが動いていた。始発の鐘までなら、この夜へ帰ってこられるという。

灯は封筒を裏返した。差出人の欄は空白だった。のりの乾いた封が、父の言えなかった言葉を閉じ込めているように見えた。

父のところへ持っていくこともできる。ここで封を開けることもできる。何も聞かず、明日の列車に乗ることだってできる。

ホームの奥で、車掌が小さく笛を吹いた。

灯は、まだ封を切っていない手紙を両手で持った。

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